NHKスペシャル 山口一郎 "うつ"と生きる ~サカナクション 復活への日々~ を見た。

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宿泊先(私は家にテレビがない)のテレビを付けたらNHKでこんな番組がやっていたのでつい見てしまいました。

 

山口一郎がコロナの後にいろいろ配信とかしていて、その後、ぱったりと活動をやめていたかと思ったら昨年くらいからカラオケ配信やゲーム配信をしていて、モニタに映る姿は少し顔が太っていて、デビュー以降頬がやせこける一方だなあ、命を削りながらやっているのだなあと思っていたので、休むことができてよかったなと思っていたのですが、結果として休んでいたのではなくうつ病と診断され、休まざるを得ない状況になっていたということを知って驚きました。

 

前身のバンドのダッチマンのドラマーがインタビューで述べていましたが、立ち振る舞いがダッチマンからサカナクションになったときにガラッと変わったと言っていて、山口一郎自身がインタビューで音楽は人生だと述べていたことを考えると、その音楽を人生として全うするために、フロントマンとしてのロールプレイを行う、演じることを決めて、20年ほど歩んできたのだなと思うと同時に、本来、彼の自然な振る舞い、精神構造にフィットした行動原理を捨てたことによる負担が、2022年になってうつ病というかたちで一気に噴出してしまったように見ていて思いました。

 

世の中の人は少なからず、うつ症状、社会で生きていくうえでストレスという負荷がかかる中で生活していると思うのですが、バンドのフロントマンであったり、会社の役職であったり、学校の生徒会長であったり、何らかの役割が与えられたとき、あるいは自分でその役割を背負うときに、あるべき姿のために自分を変えることができる(あるいは無意識に変わってしまうのかもしれない)タイプの人がいて、自分からしたらズレているものを背負って真っ当しようとする人が、こうしたうつ症状が大きくなり、人によってはうつ病になるのかなと感じました。

 

15周年のコロナ禍で行われた配信ライブで山口一郎のメンタルがバグっている瞬間の発言を残して放映していたのは個人的には凄いなって思いました。まー、ある意味では、凄くダサいことではあるものの、率直な心情、辛さを吐露している場面で、周りのエンジニアなんかもらしくない発言だなと思いながら聞いていたらしく、このライブ以降、山口一郎の体調は悪化の一路を辿っていったようなのですが。ただ、こういうロールプレイを真っ当すると、集団としての役割も決まっていって最適化されていって、バンドの中でも山口一郎がフロントマンとしてこういう仕事をするのは当然みたいなかたちになっていて、本当はそんなに負担がかかっていたのかということはあまり真剣に考えたことはなかったようです。好きだからやってるのかな、くらいな感じで。

 

とはいえ、私はサカナクションをとっても好きで熱烈にフォローしてきたわけではないのですが、それでも夜の踊り子あたりからは鬼気迫る感じというか、切迫感みたいなのを風貌からなんとなく感じていました。痩せていっていたように見えたのと、目つきがきつくなっていっていた気がするので。新宝島とかショック!みたいなコミカルなMVなんかも作っていて、山口一郎はネイティブダンサーや僕と花みたいなサカナクションじゃないとリードトラックにできないような曲を作る一方で(ネイティブダンサーの番組内で代表曲の1つとして選択した番組スタッフはセンスがある)夜の踊り子みたいな野蛮さがあるものやさよならはエモーションのようなモダンな音作りの歌モノとか、一時アリーナウケを意識したような曲が多かったけれど(それらを量産できるのも凄いのだが)ストイックだなあとは感じていました。さすが、音楽を人生と言い切るだけはありますね。

 

好きだった音楽が鬱になってまず離れていったというのは、恐らくそうなるまでは想像できなかったことだと思います。どれだけ辛くても最後の支えになるのが例えば音楽であったり、山口一郎の場合は、ファッション、本などもあるかもしれませんが、こうなるということ、音楽が耳障りで触れたくないというのは、経験しないと分からないほどの衝撃だったと感じます。しかも、そこに何か理由を見つけられるわけではなく、ただ不快になっていたのではないかと感じます。

 

そのような経験をした人間がステージに、しかも、バンドとして戻るというのは凄まじい勇気が必要だったと思います。リードマンとして引っ張って来た、サカナクション=山口一郎という看板を背負ってきた人間がうつ病になって、約2年間メンバーとは連絡を取らず、バンドのツアーを決めたにも関わらず1か月前のライブリハーサルに体調不良でいけないということは、バンドメンバーがセトリなりなんなりを今まで細かく決めてこなかったこともあってか、遅々として準備が進まず、そしてそうなっていることであることは当然、山口一郎にある意味では責任があり、それによってメンバーにどう思われているかということを想像することは、うつ病の人間にとってはそれだけですべてを投げ出してやめてしまおうと思うには十分だったと思うのですが、それでも、彼はバンドメンバーとサカナクションをしてきたから今の自分があること、待っている人間がいること、自分がサカナクションのフロントマンを背負うことを決意したそのことがうつ病の遠因になっていることは間違いないであろうことを分かっていながら、好きな音楽を続けるために、待たせた人たちに頭を下げて、ステージに立つことを決めていました。

 

彼が言っていた通り、うつ病になる前の自分に戻ることは、サカナクションのフロントマンを続ける限り恐らく無理でしょう。そうした症状をメンバーに少しずつ説明しながら、辛いときに辛いと伝えること、メンバーそれぞれに人生があることを理解しながら、負担を分かち合うことができれば、この先も良い方向に行くのではないかなと感じました。江島啓一がマジ泣きしてたときにかけた言葉は、ごめん、か、すまんですかね。どうでもいいですけど。

 

私自身、前職をうつ病で退職し、現職でも絶賛うつ病で休職中、傷病手当って同一傷病だと1年6か月が最長なんだよなという恐怖がある一方で、山口一郎同様、家族や子どもがいるわけでもないという身軽さはあるわけですが、どうなるのかなという気持ちです。まー、でも、本当に、一回は退職して、普通に今の職場で働いてきましたが、やっぱり同じようなスタンスで働いているとぶっ壊れるということが分かったので、私も諸々、変わっていかなくてはならないのだなと思っていたタイミングで見たものだったので、非常に学びがある内容でした。

 

では、ごきげんよう